東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1910号 判決
本件手形は、控訴人加藤三郎が東京都目黒区中目黒三ノ一〇九五なる肩書地を付したチクマ石油株式会社の代表取締役として振出したものであることは当事者間に争がなく、右肩書地には登記簿上同会社の本店がなく、会社の設立登記が存しないことも、控訴人の認めるところである。
ところで、成立に争のない乙第一号証によると、チクマ石油株式会社は東京都大田区入新井五丁目二五一番地に本店を有し、控訴人加藤三郎が代表取締役として就任の登記をしてあること、右会社の商号は昭和三十年十一月三十日加藤石油株式会社に、次で昭和三十二年六月十日東洋産業株式会社に順次変更されたけれども、登記簿上現に存続している会社であることを認めうる。それ故本件手形の振出人の表示と右登記簿の記載とを対照すれば、本件手形は加藤三郎が実在せざる会社の代表者として振出したものと見るよりは、登記簿上大田区入新井町五丁目二五一番地に本店を置くチクマ石油株式会社の代表取締役たる資格において振出したものと認めるのが相当であり、偶々振出人の肩書地が登記簿の本店所在地と同一でないからといつて、会社自体が存在しないものということはできない。元来振出人の名称に付した肩書地は、振出地の記載を補充する効力を有するだけで、これを付記することは手形振出の要件ではない。また会社が振出人たる場合、その肩書地は登記した本店若しくは支店の所在地に限らるべきことが手形法上要求されているのではないから、振出人は本店以外の営業所、事業所等の所在地その他取引上便宜とする地を選んでこれを記載すれば足りるのであつて、現に手形取引の実際においても振出人の肩書地は必ずしも常にその本店所在地と一致している訳ではない。それ故右肩書地が即ち本店の所在地を示すもので、その地に会社の設立登記が存しない以上、振出人たる会社は存在せず、従つて代表者個人が手形上の責任を負うべきであるとする被控訴人の主張は到底採用し得ない。
(二宮 奥野 大沢)